大規模災害が発生した際、障がい児・者や医療的ケアを必要とする人々をいかに取り残さず支援するかは重要な地域課題です。本記事では、岩手県大槌町の林野火災において県内初となる「保健医療福祉調整本部」への参加を果たした釜石広域基幹相談支援センターの実践事例を解説します。


この記事で分かること

  • 災害時における障がい児・者支援の課題と現状
  • 大槌町林野火災での釜石広域基幹相談支援センターの支援実績・役割
  • 保健医療福祉調整本部における基幹相談支援センター参画の重要性
  • 初心者向けの専門用語解説(基幹相談支援センター、調整本部、DMAT/DWAT)
  • 平時からの多機関連携による災害福祉支援体制づくりのステップ

地震や風水害、林野火災などの災害時において、配慮が必要な避難者は高齢者や乳幼児にとどまらず、障がいのある子どもや成人、医療的ケア児など多岐にわたります。しかし、従来の防災・避難体制では、障がい福祉に特化した相談支援機関の役割が明確に位置づけられておらず、現場での情報共有やニーズ把握に課題が残されていました。

本記事では、岩手県で初となった先進的な取り組み事例を通じて、災害時における障がい者支援の実態と今後の防災体制のあり方を整理・分析します。


災害時における障がい児・者支援の現状と課題

行政支援の届きにくさと基幹相談支援センターの役割

大規模災害時には、避難所での生活配慮や個別の福祉ニーズの把握が難しく、障がい児・者が取り残されるリスクが高まります。行政の福祉担当部署が支援にあたるものの、個々の障がい特性や普段の生活状況を詳細に把握している福祉の相談窓口との連携が不十分なケースが存在しました。

基幹相談支援センターは、地域の障がい者福祉における相談支援の中核を担う専門機関です。普段から障がいのある方やその家族の相談に応じ、支援ネットワークのハブとなっています。

専門用語解説

記事を理解する上で重要な基本用語について解説します。

  • 基幹相談支援センター
    地域の障がい福祉に関する相談を総合的に受ける「地域の福祉の総合窓口」です。
  • 保健医療福祉調整本部
    災害時に、自治体・医療機関・福祉団体などが集まり、被衛生的支援や医療・福祉のニーズをとりまとめて総合調整を行う現地組織です。
  • DMAT(災害派遣医療チーム)
    専門的な訓練を受けた医師や看護師等で構成され、災害直後の救急医療等を行う医療チームです。
  • DWAT(災害派遣福祉チーム)
    災害発生時に避難所などで高齢者や障がい者などの要配慮者に対して福祉支援を行う専門チームです。

岩手県初・大槌町林野火災における保健医療福祉調整本部への参加事例

釜石広域基幹相談支援センターによる現場での情報共有

岩手県大槌町で発生した林野火災において、認定NPO法人Plus One Happinessが運営する釜石広域基幹相談支援センターは、県内で初めて「保健医療福祉調整本部」へ直接参加しました。

従来の運用では行政担当者が主に参加していましたが、基幹相談支援センターが直接加わることで、地域に暮らす障がいのある方々の具体的な状況や必要な支援ニーズについて、医療・保健・行政の関係機関と迅速かつ直接的に情報を共有することが可能となりました。

行政からの指示待ち脱却と直接参画の有用性

これまでの防災対応では、行政からの情報提供や指示を待つ形が一般的でした。しかし、刻々と変化する現場の状況に対応するためには、相談支援センター側から積極的に調整本部に参画し、日常的な関わりから得られている情報を共有することが不可欠であることが今回の事例で明確になりました。


多機関連携による災害福祉支援体制構築の3ステップ

step

災害時において障がい児・者を取り残さない体制を整備するためのステップは以下の通りです。

【ステップ1:平時からのネットワーク形成】
・医療、行政、DMAT、DWAT、福祉事業所との関係性の構築
・地域の障がい児・者の把握と避難計画の確認
       ↓
【ステップ2:災害時の調整本部への早期参画】
・行政からの指示待ちではなく、自発的に保健医療福祉調整本部に参画
・専門的な見地からニーズの集約と現場情報の共有を実施
       ↓
【ステップ3:多種多様なニーズに応じた迅速な支援実施】
・医療的ケア児や重症心身障がい児等の特性に合わせた適切な支援配置
・避難所・福祉避難所・在宅における個別支援の継続

令和8年度岩手県基幹相談支援センター連絡会・研修会(シンポジウム)概要

今回の経験と知見を共有し、多機関連携のあり方を検討するシンポジウムが開催されます。

開催要項

項目内容
名称令和8年度岩手県基幹相談支援センター連絡会・研修会
テーマ災害時、障がい児・者を取り残さないために 〜多機関連携による災害福祉支援体制の構築と基幹相談支援センターの役割〜
日時令和8年11月13日(金) 14:30~17:19(第2部・第3部)
会場釜石情報交流センター(釜石PIT)
主催釜石広域基幹相談支援センター(認定NPO法人Plus One Happiness)
共催釜石市、大槌町、岩手県沿岸広域振興局、釜石大槌地域障がい者自立支援協議会

ドキュメンタリー映画『Return to My Blue』上映会

第3部では、人工呼吸器を装着した医療的ケア児の挑戦を描いた映画『Return to My Blue』の上映が行われます。映文連アワード2026最優秀作品賞(グランプリ)を受賞した話題作であり、医療的ケア児への理解を深める機会となります。


災害福祉支援に関わる主な関係機関・組織の比較表

組織・機関名主な役割災害時の主な動き
基幹相談支援センター地域の障がい福祉の総合相談・権利擁護障がい者の個別の状態・ニーズ情報の提供と調整
行政(福祉担当部署)福祉政策の立案・避難所運営・広報保健医療福祉調整本部の設置・運営・全体統括
DMAT(災害派遣医療チーム)災害急性期の救急医療・搬送被災現場や病院での医療救護・トリアージ
DWAT(災害派遣福祉チーム)避難所等での要配慮者向け福祉支援避難所での環境整備・生活支援・福祉アセスメント

Q&A

Q1. 災害時に基幹相談支援センターが保健医療福祉調整本部に参画する最大のメリットは何ですか?

A. 行政の福祉担当者だけでは把握しきれない、障がいのある方々や医療的ケア児の個別の状況や具体的なニーズについて、現場の支援実績に基づいた情報を医療・保健・救護機関へ直接届けることができる点です。

Q2. 医療的ケア児や重症障がいのある方の防災対策として、平時から取り組めることはありますか?

A. 福祉事業者、医療機関、行政自治体との関係性を平時から構築し、災害時における個別の避難行動要支援者名簿の活用や個別避難計画の作成を進めることが有効です。また、多機関が参加する研修やシンポジウム等を通じて顔の見える関係を作っておくことが推奨されます。


まとめ

大槌町林野火災における釜石広域基幹相談支援センターの事例は、災害時において基幹相談支援センターが保健医療福祉調整本部に直接参加することの重要性を示しました。

行政や医療、福祉チーム(DWAT)など多様な関係機関が分野を超えて連携し、平時からの備えと情報共有体制を確立することが、災害時に障がい児・者を取り残さない社会づくりへとつながります。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77