嚥下障害のある方も食べる喜びを!貝印が「まとまりマッシュ食」自動調理器の実証実験を開始

嚥下障害は、食物や唾液を飲み込むことが困難になる状態を指し、誤嚥(ごえん)による肺炎などのリスクがあるため、安全な食事が重要です。しかし、従来のペースト食には見た目や食感、味わいの面で課題があり、食事を楽しみにくいという声も聞かれていました。また、噛む機会が減ることで口腔嚥下機能への影響も懸念されていました。
「まとまりマッシュ食」とは?嚥下障害のある方への新しい食事形態
こうした課題に対し、「まとまりマッシュ食」という新しい食形態が提案されています。まとまりマッシュ食とは、舌や歯ぐきで押しつぶせる柔らかさで、粒がありつつもバラバラにならないようにまとめて嚥下しやすくした食事のことです。従来のペースト食と普通食の中間に位置します。
焼き魚や肉料理などのパサつきやすい食材も、粘性のある食材(穀類や芋類など)と一緒にマッシュすることで、粒がばらけずにまとまりのある食事にすることができます。トロミ剤や水を添加することなく調理できるため、食材本来の風味や味を損なうことなく「食べる楽しみ」と「安全性」を両立できる嚥下配慮食として期待されています。
介護食の負担軽減へ!産官学連携で進む自動調理器の開発
今回の自動調理器は、この「まとまりマッシュ食」を誰でも手軽に調理できることを目指して開発されました。家族と同じ食事を楽しみたいという「食べる側」と「作る側」双方の願いを、負担を強いることなく叶える調理機器の開発を目指しています。
このプロジェクトは、社会福祉法人小羊学園「つばさ静岡」の医務部長である淺野一恵医師から、「まとまりマッシュ食をより簡単に作れる機器を開発できないか」という相談が寄せられたことがきっかけで始まりました。既存の技術では対応が難しかったため、ファルマバレーセンターのコーディネートにより、貝印が参画。現場の課題とものづくり企業の技術を組み合わせた共同研究として本格的に検討が進められました。本取り組みは、公益財団法人静岡県産業振興財団が公募した「令和7年度 医療機器産業基盤強化推進事業助成金」にも採択されています。
老舗刃物メーカー貝印の技術が障害福祉分野に貢献
貝印は、包丁やカミソリなどの刃物製品に加え、調理器具や調理家電、医療機器など、幅広い分野で「切る」技術とものづくりを続けてきた企業です。本プロジェクトでは、長年培ってきた調理技術や製品開発の知見を医療・介護食領域へ応用し、「食べる喜び」を支える新たな価値の創出に取り組んでいます。
自動調理器には、貝印の調理器具ブランド「SELECT100®」のコードレスブレンダーで培った電動回転技術が活用されています。毎分約14,000回転のハイパワーモーターと、長年の刃物づくりで培われた刃の設計技術を組み合わせることで、従来は手作業では時間や手間がかかっていた「まとまりマッシュ食」の調理を、自動かつ安定した品質で行えるよう開発が進められています。
2026年9月より複数施設で実証実験を開始!家庭での実用化にも期待
2026年9月より、「つばさ静岡」をはじめとする複数の医療・福祉施設において実証実験が開始されます。実証実験では、調理品質や操作性、実用性などが検証されるとともに、調理を行う介護従事者や実際に食事を召し上がる方を対象に、食べやすさや満足度、調理負担などについて調査が実施されます。この検証を通じて、より使いやすい製品への改良が進められ、将来的な家庭向け製品の実用化も見据えた現場検証が重ねられます。
社会福祉法人小羊学園「つばさ静岡」医務部長・医師の淺野一恵氏は、この取り組みについて次のようにコメントしています。
摂食嚥下に課題を抱える人にとっても、食事は栄養を摂るためだけのものではなく、日々の楽しみや生活の質にも関わる大切な時間です。一方で、医療・介護の現場では、安全性に配慮しながら、食べる方の満足感や作る側の負担軽減を両立することに難しさがあります。「まとまりマッシュ食」をより簡単に、安定して作ることができれば、食事の選択肢を広げる一助になると考えています。今回の実証実験を通じて、現場での使いやすさや改善点を確認しながら、より実用的な形につなげていきたいです。
貝印が目指す、障害福祉・介護領域における新たなものづくり
貝印は本取り組みを通じて、嚥下障害のある方が食べる喜びを感じられること、そして支える方の負担を少しでも軽減できることを目指しています。製品の普及だけでなく、介護食をめぐる社会課題に対し、企業の技術と現場の知見を掛け合わせて解決策をつくることも、本プロジェクトの重要な意義です。
今後も貝印は、医療・介護現場との連携を深めながら、ものづくりを通じた社会課題の解決に取り組んでいくでしょう。実証実験で得られた知見については、将来的に日本摂食嚥下リハビリテーション学会をはじめとする専門領域での発表や展示も視野に入れ、医療・介護現場から在宅介護に至るまで新たな食支援の選択肢として社会実装を目指していくことが期待されます。
貝印株式会社の公式サイトはこちらです。
まとめ
嚥下障害のある方にとって、食事は単なる栄養摂取だけでなく、生活の質(QOL)を高める大切な要素です。今回の「まとまりマッシュ食」自動調理器の実証実験は、その喜びを取り戻し、介護する側の負担も軽減するという、まさに障害福祉分野が目指すべき方向性を示しています。産官学連携によるこの革新的な取り組みが、多くの人々の食生活を豊かにし、より良い社会の実現に貢献してくれることでしょう。今後の実証実験の結果と、製品の家庭での実用化に大きな期待が寄せられます。
