障害福祉の現場で模索が続く「医療的ケア児者」やその家族への支援。本記事では、全国の優れた取り組みを表彰する「第3回スペシャルニーズアワード」の受賞事例や支援の工夫を解説します。先進的な自治体や福祉法人、民間団体の実践を知ることで、誰もが地域で安心して自分らしく暮らせる「インクルーシブなまちづくり」のヒントが得られます。


この記事で分かること

  • 「スペシャルニーズアワード」の設立目的と3つの表彰部門
  • 第3回受賞者(国立市・社会福祉法人昴・一般社団法人Try Angle)の具体的な取り組み事例
  • 医療的ケア児者支援で知っておきたい専門用語(胃ろう・人工呼吸器・意思決定支援など)の解説
  • 令和8年10月10日開催「ふわりんクル~ジョン2026」授賞式・事例発表フォーラムの概要
  • 障害福祉と医療的ケア児者支援に関するよくある質問(Q&A)

医療的ケア児者支援の光となる「スペシャルニーズアワード」とは?

全国には、日常生活の中で医療的なサポートを必要としながら暮らす子どもたちや成人、そしてその家族が数多く存在します。現場の最前線で地道な支援を続ける人々に光を当て、優れた実践事例を全国へ広めるために創設されたのが「スペシャルニーズアワード」です。

ネットワーク創設の背景とアワードの目的・3つの部門

医療的ケア児者が安心して夢や希望を持って暮らせる社会の実現を目指し、市区町村長が中心となって2023年11月15日に「医療的ケア児者を応援する市区町村長ネットワーク」が設立されました。会長は岐阜県飛騨市長の都竹淳也氏が務め、2026年9月25日現在で全国71自治体が参加しています。

本ネットワークでは、現場で「縁の下の力持ち」として活動する方々を応援するため、2024年度に「スペシャルニーズアワード」を創設しました。アワードには以下の3つの部門が設けられています。

  • 頑張る自治体部門:医療的ケア児者支援に積極的に取り組む自治体を対象とした部門
  • 頑張る自治体職員部門:現場で熱心に支援にあたる自治体職員を対象とした部門
  • やさしいまちづくり部門:地域社会でインクルーシブな環境づくりに取り組む法人・団体・個人を対象とした部門

第3回となる今回は、全国から寄せられた12件の応募の中から、「頑張る自治体部門」で1団体、「やさしいまちづくり部門」で2団体の受賞が決定しました。


【専門用語解説】医療的ケア児者と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)

福祉分野でよく使われる基本用語について解説します。

【医療的ケア児者】 日常生活の中で、人工呼吸器の装着、痰(たん)の吸引、経管栄養(胃ろうなど)といった医療的ケアを恒常的に必要とする子ども(医療的ケア児)および成人(医療的ケア者)のことを指します。

【社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)】 障害の有無、年齢、性別などにかかわらず、すべての人々を社会の一員として包み込み、共に支え合って暮らせる地域社会を目指す理念のことです。


第3回スペシャルニーズアワード受賞者の先進的な障害福祉事例

今回のスペシャルニーズアワードで受賞を果たした3つの団体・自治体では、地域特有の課題に応じた画期的な取り組みが行われています。

【頑張る自治体部門】東京都国立市:医療・保育・看護が連携する切れ目のない伴走支援

【受賞者:国立市】

東京都国立市では、医療的ケアが必要な子どもたちが保育園や学校に通うことをあきらめず、「地域の子どもとして当たり前に成長できる環境」を行政と地域が一体となって構築しています。

  • 分野を越えた多職種連携:保育・母子保健・医療・訪問看護などの関係者が一人ひとりの子どもについて話し合い、通園・通学に向けた支援計画を組み立てています。
  • 看護師の継続伴走:必要な看護師を訪問看護ステーションに委託することで、進学や転園によって環境が変わっても同じ看護師が継続してサポートできる体制を整えています。
  • ケア会議による課題解決:困りごとや不安が生じた際には「ケア会議」を開催し、関係者が協議して解決策を導き出しています。

転園や進学といったライフステージの変化にも対応できる柔軟な支援モデルとして、全国の自治体から高く評価されています。


【やさしいまちづくり部門】社会福祉法人昴:重度障害や医療的ケアがあっても地域で自分らしく暮らす仕組み

【受賞者:社会福祉法人昴】

社会福祉法人昴は、「重い障害があったとしても地域で普通の暮らし」という理念のもと、高度な医療的ケアが必要な方の地域生活を支えています。

  • 多様な医療的ケアへの対応:吸引・胃ろう・人工呼吸器などが必要な方に対し、本人が自ら活動やサービスを選び取れる環境を提供しています。
  • ICTと共通ノートを活用した多職種連携:訪問医師・訪問看護師・薬剤師・相談支援専門員などがICTや共通ノートを通じてリアルタイムで情報を共有しています。
  • グループホームでのケア基準明確化:グループホームで対応可能なケアの基準を具体化し、重度障害のある方の地域移行や意思決定支援に向き合っています。

専門的な医療・福祉連携と意思決定支援の実践モデルとして期待が寄せられています。


【やさしいまちづくり部門】一般社団法人Try Angle:旅行や外出支援を通じて育むインクルーシブな体験

【受賞者:一般社団法人Try Angle】

一般社団法人Try Angleは、医療的ケア児者とその家族が直面する「外出や旅行のハードル」を下げ、誰もが楽しめる「おでかけ」の機会を創出しています。

  • 家族向け旅行・イベント支援:旅行や体験型イベントを通じて、家族に新たな自信や挑戦への意欲を提供しています。
  • 観光・事業者向け研修:旅館業や観光業者などを対象に研修を行い、受け入れ側の環境整備を推進しています。
  • 地域社会との協働:地域の公民館や事業者と協力し、遊びやワクワクする体験を通じて、多様な子どもたちが自然に交流できる場をつくっています。

「楽しさ」を出発点として地域全体を巻き込み、全国へノウハウを共有している点が評価されています。


【専門用語解説】支援現場を理解するためのキーワード

記事内で触れた専門用語について補足説明します。

【胃ろう(いろう)】 お腹の皮膚から胃へ小さな穴(ホール)を開け、カテーテルを通じて直接栄養や水分、服薬を行う医療措置のことです。

【人工呼吸器(じんこうこきゅうき)】 自力での呼吸が困難な場合に、機械を用いて肺への空気の送排気を補助・代行する装置です。

【意思決定支援(いしていけいしえん)】 障害のある方自身が希望する暮らしや意思を選択できるよう、周囲の専門職や家族が丁寧に思いを汲み取り、決定をサポートするプロセスのことです。


令和8年10月10日開催!「ふわりんクル~ジョン2026」授賞式・事例発表フォーラムの概要

第3回スペシャルニーズアワードの授賞式および事例発表は、地域共生社会を目指すイベント「ふわりんクル~ジョン2026」内のプログラムとして開催されます。

当日のプログラムと注目の記念講演・セッション

授賞式当日は、受賞者による取り組み発表のほか、有識者や当事者家族による講演が予定されています。

  • 日時:令和8年10月10日(土) 13:00~17:30
  • 会場:TKPガーデンシティPREMIUM品川 5・6階(東京都港区高輪4丁目11-16)
  • 主催:医療的ケア児者を応援する市区町村長ネットワーク(事務局・プレスリリース配信:株式会社Well Being Lab)
時間プログラム内容概要
13:00~スペシャルニーズアワード 表彰式受賞者への表彰
13:30~シンポジウム(受賞者の事例発表)受賞団体・自治体による実践発表
15:15~記念講演テーマ「命の可能性を最大化する視点」~親として、フィジカルエデュケーターとして~
16:15~セッションテーマ「子どもの可能性を地域で支えるために」

会場アクセスと参加申込方法

医療的ケア児者支援や地域づくりに関心がある方なら、どなたでも参加可能です。全国の実践事例を直接聴くことができる機会となります。


Q&A

読者の皆様から寄せられる代表的な疑問にお答えします。

Q1:「医療的ケア児者を応援する市区町村長ネットワーク」とはどのような組織ですか?

A1:医療的ケア児者が安心して暮らせる地域社会の実現を目指し、現場の最前線に立つ全国の市区町村長が集まって2023年に設立されたネットワークです。先進自治体の事例共有や国への要望活動などを行っています。

Q2:スペシャルニーズアワードの取り組みは他の自治体や団体でも取り入れられますか?

A2:はい、取り入れ可能です。受賞事例(国立市の看護伴走体制、社会福祉法人昴の多職種連携、Try Angleの旅行支援ノウハウなど)は、他の地域でも応用可能な汎用性の高いモデルとして評価・共有されています。

Q3:10月10日のイベントは一般の参加も可能ですか?

A3:可能です。医療的ケア児者のご家族をはじめ、福祉・医療従事者、自治体関係者、障害福祉に関心のある一般の方まで幅広く参加を募っています。事前にお申し込みのうえご参加いただけます。


まとめ:医療的ケア児者と家族が安心して暮らせる地域社会を目指して

医療的ケア児者とその家族が地域で孤立することなく、自分らしく夢や希望を持って暮らすためには、医療・保育・行政・民間団体が一体となった多角的なサポートが不可欠です。

今回の「第3回スペシャルニーズアワード」で表彰された国立市、社会福祉法人昴、一般社団法人Try Angleの取り組みは、障害の有無を超えて誰もが尊重される「インクルーシブな地域づくり」の可能性を示しています。

一人ひとりが福祉の現状や先進事例に関心を持ち、地域の中で温かいサポートの輪を広げていくことが、誰もが暮らしやすい社会の第一歩となります。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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