今回は、東京・下高井戸にある名刺印刷会社、有限会社まるみさんにお邪魔しました。
まるみさんの主な事業は名刺作成(デザイン・印刷)。
また、最近では名刺以外のデザイン業務も請け負うようになり、チラシ・ホームページの作成なども行っています。
現在の社員数は9名(業務委託1名)で、うち障害のある社員が5名在籍しています。

障害者雇用のきっかけや、働き方の工夫などについて取締役社長・三鴨岐子さんにお話を聞きました。

代表の三鴨さん。NPO法人の理事として障害者や若者の就労支援にも関わっている

‐障害者雇用はどのようなきっかけではじめたのでしょう?

2006年に私の父が亡くなり、事業を承継することになりました。同時期に退職者が出てハローワークで求人募集したことがきっかけです。ハローワーク経由で最初に採用した女性が統合失調症でした。

当時はその人に障害があることは知らず、私自身にも統合失調症に関する知識はありませんでした。彼女はパート勤務を希望していて私としてもその勤務形態で問題なかったので、週2、3日くらいの出勤からスタートしてもらいました。

仕事が忙しくなり、勤務時間は徐々に伸びていき、≪一日勤務・午後勤務・休み・午後勤務・一日勤務≫のような勤務形態になったんです。彼女は、不規則な出勤を「カスタネット勤務」と言っていましたが(笑)、つまり飛び飛びですが勤務を継続できていました。それでも、他の社員が辞めたりするなかで、彼女は勤務時間的にも、業務的にも少しずつ成長を続けてきました。

統合失調症のある社員の自著。当事者である本人の悲喜こもごもが好評

数年後、本人の口から「実は統合失調症だ」ということを伝えられ、そこで初めて障害があることがわかりました。今思えば、あの時期しんどかったのか、などと考えることはありますが、周囲に悟られないように本人が頑張ってきたのだと思います。
彼女の事情を深く知らないまま取り組んできた、少しずつ勤務時間を延ばす方法は結果的に上手くいっていたんですね。
また、私も彼女から「統合失調症」という言葉を初めて聞き、自分なりに調べていきました。そこでようやく特徴や症状を理解しはじめました。

そんななか偶然、『治りませんように べてるの家のいま』(斉藤道雄著 みすず書房2010年)という「べてる」※の本に出会い、すぐ当社の顧問社労士と一緒に「べてる」の集会に参加しました。
※「べてるの家」(https://bethel-net.jp/)北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点。東京池袋にある「べてぶくろ」では、共同住居やグループホームの運営、当事者研究、べてるの商品販売等をはじめ、独自の活動をしている。

社内で当事者研究を実施

べてるの集会に参加した日、自分のしんどさの原因を自分と仲間と一緒に探る「当事者研究」を初めて目の当たりにし、それから「しんどさがありながら働くとは?」などについて社労士さんと一緒に考え始めました。

そこで実施してみたことの一つが、「べてる」を真似た、社内での当事者研究です。なかでも、自分の苦労をシェアすることに社員みんなで取り組んでみました。苦労をシェアし、助けてほしいと声を出すことで回りも理解できるし、本人の気分が楽になるんじゃないかと思ったんです。
ちなみに私は自分を検証した結果、「過去中毒」でした(笑)。時間が空くと「嫌なこと」をわざわざ思い出し泣いたり落ち込んだりして疲れて寝るという癖があったんです。

‐一緒に働いている障害のある人たちへの配慮やサポートはありますか?

私は、特性ではなく‟癖“と捉えています。癖は誰にでもありますよね。ですので、それぞれ苦手なことがあって得意があるし、苦手なことはやらない方が良いと考えています。

例えば、パートタイムなど社内にいてくれる時間が限られている人に、誰にでもできる仕事をやってもらうのではもったいないですよね。その人が得意なことをやってもらう方が良いと思っています。全員に対してそう思っているので、得意なことを組み合わせて仕事をしてもらっています。

各自が特性に合わせた業務に従事。デザインのみで能力を発揮するスタッフも

会社を休みたい人はいない

会社を休もう」と思っている人はいないと思うんです。皆、できることなら休まずに出勤したいと思っているはずです。でも、どうしても具合が悪くて出勤できないときがあるんですよね。やむを得ない理由があって休むのだから、そこを責めても意味はないと考えています。

以前、当社にいた社員で、「遅刻を苦にして引きこもる」人がいました。「時間を守れない自分は社会人失格」と思って引きこもってしまうんです。それはとてももったいないことです。ですので、私は遅刻でも良いので出勤してくださいと言い続けていました。実際に、午後からでも出勤してもらえれば現場としては助かります。今いる人たちも体調が整わないなかで頑張って出勤してくる人もいますし、遅い出社の分、夜遅くまで働いている人もいます。その頑張りに敬意を表します。

また、当社は在宅作業もOKにしています。デザインや編集をしたり、HPを作ったりです。実際に何をどれだけしたかの把握は、具体的にはしていませんのでそこは性善説になります。ただ、うちのような小さい会社では何をやったかの成果は見えるので、働いた時間は自己申告にしています。

ちなみに当社は時給制です。出勤した分がそのままお給料になります。もちろん社会保険加入、有給も付与しています。遅刻・早退・欠勤しても、給料から天引きされるわけではないし、ペナルティもないので、今の社員の働き方には合っていると思います。

自社のスタッフをイラスト化。オリジナルの「トランプ名刺」も同社の人気商品

‐一緒に働いてみて感じたことや学んだことはありますか?

コミュニケーションや仕事の進め方で、ある社員に特徴的なこだわりややり方があったとして、それを「もっとこうした方が良い」と自分のやり方を強く押し付けることがなくなりました。

「そのやり方はダメ」と言うのではなく、その人はどうしてそういうやり方をしているのかを観察し考えるようになりました。言っても直らないということもありますが(笑)。
言うだけではダメですし、言うことで責めたり罰したりしても改善しないんです。「どうしてなのか」を一緒に考えることが大切だということが分かりました。

そして、それができるようになってきたら、社外(お客様や仕入先様)についてもそう考えられようになってきたんです。

そうなると、徐々に「なぜこのお客様は怒っているのか。どうしてなのか」という理由や、相手の事情を考える癖がついてきました。お客様がなぜ怒っているのかを理解しないと次から気をつけようがないし、それが分からないと毎回謝ってばかりになります。

実は、あるお客様からクレームに入ったことをきっかけに、そのお客さんを再現するかたちで、電話口のロールプレイを皆で役柄を交代しながらやってみたことがあります。
そうすると、何が食い違っているのかが良く分かってきたんです。

ところどころで「この部分の対応は私たちが悪かった」「実はお客さんは怒りながらも対処してくれた」など、いろいろ見えてきたんです。そうすると「どこが怒らせたポイントなのか」が見えてきて、次に気を付けることが分かってきます。これは障害者雇用からの学びだと思います。 原因が分かれば対処の仕方も考えられます。対処しきれないものもあるので、その場合は、それが発生しないような仕組みを考えれば良いんだ、ということに気が付きました。

各人の強みと苦手を数値化。三鴨さんもスタッフからシビアに評価される⁉

来た人に合わせてルールを変える

小さな会社だからできることだと思いますが、「朝からちゃんと来る」というルールを取り除いてしまえば、朝が弱い人でも「遅刻」することがなくなります。例えば、朝が弱いけど昼にはしっかり来るのであれば、その人の出勤時間を「13時」に変えることでその人の遅刻はなくなります。12時30分に来たらむしろ「今日は早いね!」となるくらいです(笑)。

この考え方は中小企業ならではだと思います。なぜなら、人を変えるより、ルールを変えるほうが難しくありません。今の時代、人を採用することは困難です。「うちのルールはこれです。ルールに従って働いてください」といって自社のルールに合った人を採用しようとしたら、中小企業に人は来てくれません。それよりも、働き方に合わせて就業規則を変えていく方が良いと思います。

もちろん規則を変える際には、ある特定の人だけに都合の良い規則で、他の社員からみると「ズルい」「えこひいきだ」、となってしまうのであれば良くないですが、そうでないなら就業規則を変えることに問題はないと思います。社員同士の納得感が大事になります。

お話しした通り、当社は昼から出勤の人が多いので、今は私は午前はなるべく外出しないようにしています。今は午前中から動かなくてはいけない仕事が多くないので特に困ってはいませんが、今度はどうなるか分かりません。ですので、これからきて欲しい人は、「朝に強い人」ですね(笑)。

取材当日、唯一朝からの出勤だった近藤さん。いつも朝一番にプリンタの調整。社歴は短いがすでに戦力となっている

会社概要
社  名:有限会社まるみ
代 表 者:取締役社長 三鴨岐子
住  所:〒168-0073 東京都杉並区下高井戸1-25-12 万国屋ビル3階(京王線「桜上水駅」北口から徒歩2分)
TEL:03-6379-8081 FAX:03-6379-8084
HP:https://marumi-print.jp/
メール:marumikamo08@nifty.com