発達障害・知的障害のある子どもの視力測定を支援する新たなモデルが検証中

発達障害や知的障害のある子どもたちの視力測定は、その特性ゆえに困難を伴う場合があります。NPO法人ぴあっとが推進する「スモールステップで歩める やさしい視力測定のいっぽ」プロジェクトは、この課題に対し、家族、医療、福祉、教育の多職種が連携し、一人ひとりの子どもに合わせた視力測定支援モデルの構築を目指しています。

発達障害・知的障害のある子どもの視力測定における課題

子どもの視力は6〜8歳頃までにほぼ完成するといわれており、この時期に弱視(眼鏡などで矯正しても視力が十分に上がらない状態)などの見え方の問題を発見し、適切な治療を開始することは、その後の視機能に大きく影響します。弱視は約50人に1人にみられるとされ、早期発見・早期治療が重要です。

しかし、発達障害や知的障害のある子どもの中には、以下のような理由から視力測定が難しいケースが少なくありません。

  • 検査方法の理解が難しい

  • 初めての環境に対する不安が強い

  • 遠くに意識を向けることが難しい

  • 片目を隠すのが苦手

  • 言葉や指差しでの回答が難しい場合、回答方法が限られる

これらの課題により、視力測定ができないまま見え方の問題が見過ごされてしまうこともあり、国内でも発達特性に応じた視力測定支援の方法については、まだ十分に整理されていないのが現状です。

2026年、発達・知的障害のあるお子さんが安心して受けられる「やさしい視力測定支援プロジェクト」のイラスト。スモールステップで進める視力検査を医療従事者がサポートする様子が描かれています。

「測れない」を「測れる」に変えるプロジェクトの始動

NPO法人ぴあっと(神奈川県相模原市、代表理事:五十嵐舞子)は、このような状況を「測れない」で終わらせるのではなく、どうすればその子に合った方法で測れるのかを検証し、支援ノウハウとして整理・発信することを目指しています。これにより、一人でも多くの発達障害・知的障害のあるお子さんが安心して視力測定を受けられる社会の実現が期待されます。

一人の母親の思いから始まった「やさしい視力測定のいっぽ」

このプロジェクトは、NPO法人ぴあっと代表の五十嵐舞子氏自身の経験がきっかけで始まりました。最重度の知的障害と自閉症のある小学5年生の息子さんが、これまで一度も視力測定ができなかったという経験から、「このまま視力を測ることはできないのだろうか」と感じていたといいます。そんな中、イラストを使った視力測定に出会い、「この方法なら、練習を重ねればできるかもしれない」という希望が、プロジェクトの原点となりました。

晴れた日に日本家屋の縁側に座る女性と男の子の親子。二人はピースサインをしており、リラックスした和やかな雰囲気が感じられます。男の子は靴を抱えています。

一般的な方法で測定が難しくても、その子の発達段階や得意なことに合わせた方法や練習機会があれば、視力測定につながる可能性があるという思いから、「検診をあきらめない」ためのプロジェクトが立ち上げられました。

多職種連携による支援モデルの検討

2026年1月、発達障害への理解がある眼鏡屋や視能訓練士との出会いを経て、NPO法人ぴあっとは、第4回〈はまぎん〉ミライを創るアクションプログラムからの助成を受け、家族・医療・福祉・教育の多職種によるプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトでは、まず視力測定が難しかった子どもの保護者や、練習を重ねて測定につながった保護者へのヒアリングを実施。さらに、自治体の検診方法や地域の養護教諭、眼科医への聞き取りを行うことで、多角的な情報収集が進められました。

会議室のような場所で、2人の女性がテーブルを囲んで対話しています。左の女性は笑顔で書類に記入しており、右の女性と相談している様子です。

菊池眼科医院の看板の前で、男女2人が笑顔で立っている様子を捉えた写真です。看板には診療時間や電話番号が明記されており、クリニックの外観が伺えます。

その後、プロジェクトメンバーである家族、視能訓練士、眼鏡屋、保育士、支援者などが集まり、一人ひとりの発達段階に合わせた視力測定方法や体験会の進め方について検討を重ねました。そこで整理された支援方法をもとに、第1回視力測定体験会が開催され、実際のお子さんへの支援を通して有効性や課題の検証が行われました。

和室で5人の女性が低いテーブルを囲み、書類やノートを広げて真剣に話し合ったり作業したりしています。会議やワークショップのような雰囲気で、共同で何かに取り組んでいる様子が伺えます。

畳の部屋で開催されている「視力測定体験会」の様子です。参加者が視力検査を受けている横で、スタッフが説明を行っています。明るく親しみやすい雰囲気のイベントで、NPO「ぴあと」が主催しているようです。

発達支援の視点を取り入れた「やさしい視力測定」の具体的な工夫

2026年6月14日に開催された第1回視力測定体験会には、発達障害や知的障害のある年中児から小学5年生までの10組の親子が参加しました。

このプロジェクトでは、「子どもに検査を合わせる」という発達支援の考え方を取り入れています。発達障害や知的障害のある子どもたちは、一人ひとり発達段階や理解の仕方、興味のあるもの、不安を感じる場面が異なります。そのため、「全員が同じ方法で測定する」のではなく、その子に合った方法を選べるよう、複数の視力測定方法が準備されました。

複数の視力測定方法と安心への支援

実施された主な測定方法は以下の通りです。

  • スポットビジョンスクリーナー(SVS)による測定: カメラのように目を撮影するだけで、近視・遠視・乱視などの屈折異常や、斜視・瞳孔不同などを短時間で測定できる機器です。

  • モニターに映る縞模様への反応を見る測定

  • 一般的なランドルト環(Cの形をした指標)による視力測定

  • 同じイラストを選んで答える絵指標による視力測定

  • 近い距離で実施できる森実式ドットカードの視力測定

「この方法で測れなければ終わり」ではなく、その子に合った方法を探しながら測定を進められることが、本プロジェクトの大きな特徴です。

木目調の背景に、白地に黒いCの文字が書かれた八角形のカードが4枚並べられています。それぞれのCの文字は大きさが異なり、視力検査などで使用されるランドルト環に似ています。

白いカードに蝶、魚、カラス、犬のシルエットがそれぞれ描かれ、2x2のグリッド状に配置されています。シンプルでミニマルな動物のイラストです。

また、プロジェクトでは、当日の視力測定だけでなく、参加前から安心して取り組める環境づくりも重視されました。

  • 参加前には、お子さんの好きなことや苦手なこと、不安になりやすい場面、普段のコミュニケーション方法などをアンケートで詳細にヒアリングし、スタッフ全員で共有。

  • ご家族には会場レイアウトや当日の流れを写真付きで事前に伝え、お子さんが見通しを持って参加できるよう配慮。

  • 当日は、次に行う活動が分かる写真カードを使用したり、机や椅子の配置、取り組む順番や場所をお子さんの様子に合わせて柔軟に変更したりするなど、一人ひとりが安心して参加できる環境づくりが行われました。無理に測定を進めることはせず、お子さんのペースを大切にしながら実施されたとのことです。

子供向け視力測定体験会の案内チラシ。会場アクセス、和室のイベントスペース、カメラ・反射測定、メガネ体験など、様々なアクティビティや当日の流れを紹介。子供たちが楽しみながら視力について学べる工夫が凝らされている。

「できた!」を積み重ねるスモールステップ

体験会では、いきなり視力測定を始めるのではなく、「できた!」という成功体験を積み重ねながら、少しずつ測定につなげるスモールステップ(達成困難な目標を、小さな段階に分けて一つずつクリアしていく支援方法)が実践されました。

例えば、ランドルト環による視力測定では、以下のような段階を踏みました。

  1. 療育などで馴染みのある図形の型はめパズルから開始。
  2. 3Dプリンターでオリジナル作製したランドルト環パズルを使って「向きを合わせる」ことを練習。
  3. 理解が進んだ段階で視力測定へとつなげる。

室内で、女性が子どもが木製パズルに取り組む様子を見守っています。子どもはマスクを着用し、集中してパズルをはめ込んでおり、学習や療育活動の場面と考えられます。

女性と子供が白いテーブルに向かい合っています。子供はマスクを着用し、黒いリングのパズルや知育玩具で遊んでいます。女性は指導者かセラピストのようで、子供の活動を見守っています。療育や学習の場面を捉えた一枚です。

女性が子供に対してランドルト環を使った視力検査のような活動を行っています。テーブルには複数のランドルト環が置かれており、後ろには別の大人が見守っています。和室のような空間で行われている様子です。

また、絵指標による視力測定では、最初はカラーイラスト同士を組み合わせるマッチングから始め、次に白黒のイラストへと段階的に進めることで、お子さんが無理なく測定方法を理解できるよう工夫されたとのことです。

日本家屋の室内で、大人の女性と子供がテーブルを挟んで絵カードを使った学習や療育のような活動を行っています。女性は魚の絵カードを持ち、子供はテーブルの上のカードを見ています。

女性が卓上で蝶のシルエットカードを使った活動を行っている。向かい側の人物がテーブル上のカードに手を伸ばしており、学習や発達支援のような様子が見られる。背景は障子の和室。

和室のような空間で、3人の人々がテーブルを囲んで学習やワークショップを行っている様子です。一人の女性がホワイトボードの前で説明し、別の女性は笑顔で座っています。テーブルには犬のシルエットの絵があり、参加者の一人がカードを持っています。

第1回視力測定体験会の様子は、以下のYouTubeショート動画でも確認できます。

第1回視力測定体験会の様子

体験会で見えた成果と参加者の声

第1回視力測定体験会終了後に実施されたアンケートでは、参加者全員(10組)が「このような体験会は必要」と回答しました。体験会の満足度は100%(「とても満足」90%、「満足」10%)、スタッフの対応についても全員が「とてもよかった」と回答しています。

視力測定体験会のアンケート結果をまとめた資料。参加者10組全員が体験会に満足し、スタッフ対応も最高評価。子どもの8割が予想以上に積極的に取り組み、体験会の必要性も100%肯定されたことが示されている。

さらに、参加前の予想と比べて80%の保護者が「思っていた以上に子どもが取り組めた」と回答しており、多くのお子さんが保護者の予想を超えて視力測定にチャレンジする姿が見られたとのことです。

特に、これまで視力測定が難しかったお子さんのうち5名が、今回初めて視力測定につながりました。また、視力測定まで至らなかったお子さんも、ランドルト環の向きを理解したり、メガネを装着できたり、様々な測定方法があることを知ってもらうなど、一人ひとりが次につながる「できた!」を積み重ねることができたと報告されています。

本プロジェクトでは、視力が測れたかどうかだけでなく、「安心して参加できたこと」「できた!という成功体験を積み重ねられたこと」「次の一歩につながる経験ができたこと」も大切な成果として捉えられています。

参加者からは、以下のような感想が寄せられました。

  • 「今まで眼科では親子で何度も泣きながら挑戦しても検査ができませんでしたが、今回は泣かずに穏やかに取り組むことができました。何より『見えている』ことが分かって本当に嬉しかったです。」

  • 「視力測定ができるとは思っていませんでした。パズルを使って少しずつ測定につなげる方法に驚きました。周りを気にせず参加できたこともありがたく、いただいたランドルト環パズルは今でも持ち歩き、家でも楽しみながら取り組んでいます。」

今後の展望とNPO法人ぴあっとの活動

本プロジェクトは、視力を測ることだけを目的とした取り組みではありません。体験会や多職種による検討会を通して得られた知見を整理し、家族だけでなく、眼科、学校健診、自治体、福祉事業所など、さまざまな現場で活用できる支援モデルとして発信していくことを目指しています。

2026年9月には、第2回視力測定体験会が開催される予定です。第1回体験会で得られた成果や課題をもとに支援方法をさらにブラッシュアップし、一人ひとりのお子さんに合った視力測定支援モデルの検証が進められることでしょう。NPO法人ぴあっとは、「視力測定は難しいからできない」とあきらめるのではなく、「どうすればその子に合った方法で測れるのか」を考える社会の実現を目指しています。

NPO「ぴあっと」が主催する、発達・知的障害のあるお子さん向けの「やさしい視力測定体験会」の集合写真です。参加者たちは笑顔で、視力測定に関する看板や器具、おもちゃなどを手にしています。畳敷きの和室で和やかな雰囲気の中、プロジェクトの成功を祝っているようです。

NPO法人ぴあっとについて

NPO法人ぴあっとは、『こどもの発達のみかたをふやす』をモットーとし、発達にゆっくりさや凸凹があるお子さんと、ご家族が地域で安心して暮らせる社会をつくるため、2023年4月に神奈川県相模原市で活動を開始しました。発達障害や知的障害のある子どもの家族や支援者、専門家などが立場や所属の垣根を超え、子どもたちを通して地域でつながっていくことを目指しています。

  • 団体名:NPO法人ぴあっと

  • 代表理事:五十嵐 舞子

  • 設立:2023年4月4日

  • 所在地:〒252-0135 神奈川県相模原市緑区大島3197-5

  • HP:https://npo-piatto.jp

「NPOぴあっと」という文字が、それぞれピンク、水色、黄色、緑色の可愛らしいブロック状の文字で表現されています。緑のブロックには小さな双葉が生えており、親しみやすく、成長やコミュニティを連想させるイラストです。

このプロジェクトの取り組みは、発達障害・知的障害のある子どもたちの健やかな成長を支える上で、非常に重要な一歩となるでしょう。今後の活動にも注目が集まります。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77