AIと支援員の協調で「働き続けられる」社会へ|精神・発達障害者向け就労定着支援システムの実証開発が開始
精神・発達障害のある方が、安心して長く働き続けられる社会の実現に向けて、大きな一歩を踏み出す新たな取り組みが始まりました。
株式会社Quixotiks(キゾティクス)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する2026年度「SBIR推進プログラム(連結型)」に採択され、精神・発達障害者向けの就労定着支援システムの実証開発を開始したことを発表しました。このシステムは、AIと熟練の支援員が連携することで、働く上でのメンタル面の不調や離職といった課題の解決を目指します。中央大学文学部の高瀨堅吉教授の監修のもと、全国の就労支援施設でその有効性と安全性が検証される予定です。
障害者雇用の現状と「就労定着」の課題
近年、障害者法定雇用率の引き上げに伴い、民間企業で働く精神障害者の数は増加傾向にあります。しかし、その一方で、精神・発達障害のある方の平均勤続年数は約5年と短く、「メンタル面の不調」が離職の主な理由として挙げられています。
就労支援の現場では、支援人材の不足により、夜間や休日を含めたきめ細やかなサポートが難しいという実情があります。また、働く側も、支援員に「評価される」ことへの遠慮から、本音を話しにくいと感じるケースも少なくありません。このような状況から、働く障害のある方への継続的な支援と、支援現場の負担軽減の両立が社会的な課題となっています。
専門用語解説
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障害者法定雇用率: 従業員の一定割合を障害者とすることを企業に義務付ける制度です。この割合は定期的に見直され、引き上げられることがあります。
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就労定着: 障害のある方が、就職した職場で安定して働き続けることを指します。就職後のサポートや環境整備が重要となります。
AIと支援員が連携する「就労定着支援システム」の概要
キゾティクスが開発を進めるこのシステムは、同社独自の対話AI「QX Engine」を搭載したAI対話アプリと、支援員向けの管理ダッシュボードを組み合わせたものです。
利用者の日常を支えるAI対話アプリ
利用者は、日頃使い慣れているLINEを通じてAIと対話できます。このAIは、日々のセルフケアや生活リズムの調整など、就労を継続するために必要なサポートを提供します。過去の実証では、AI対話によって自己効力感の向上や、支援員による声掛け回数の削減といった効果が確認されています。
支援員の負担を軽減する管理ダッシュボード
支援員は、管理ダッシュボードを通じて利用者の状態を把握できます。AIが利用者の「SOSサイン」を検知した際には通知が届くため、支援員は必要なタイミングで専門的なサポートを提供することが可能になります。これにより、支援の質の向上と、支援員の負担軽減が期待されます。

なお、このシステムは日々のセルフケアと就労定着を支援することを目的としており、診断や治療を目的とした医療機器ではありません。
中央大学監修のもと、全国で実証と科学的検証を開始
本事業は、キゾティクスが研究開発の実施主体となり、中央大学文学部の高瀨堅吉教授(心理学)が評価計画や統計解析の監修、研究倫理審査を担当します。また、株式会社シーアイ・パートナーズの協力を得て、同社が運営・連携する大阪、福岡、宮城の就労支援施設で実証が行われます。
本フェーズでは、汎用生成AIを対照とした比較実証を通じて、このシステム特有の有効性と安全性を科学的に検証することで、製品化に向けた確かな基盤を築くことを目指しています。

今後の展望:就労定着支援の社会インフラへ
キゾティクスは、フェーズ1(2027年3月まで)で有効性の検証と製品プロトタイプの完成を目指し、続くフェーズ2では製品化・事業化を進め、2028年度の販売開始を目標としています。
将来的には、就労系障害福祉サービス事業所、特例子会社、一般企業の障害者雇用部門などへの展開を通じて、3年後には200事業所への導入を目標に掲げています。このシステムが、障害のある方の就労定着を支える社会インフラとなることが期待されます。

専門用語解説
- 特例子会社: 企業が障害者の雇用を促進するために設立する子会社で、一定の要件を満たすと親会社の雇用率に合算されます。
SBIR推進プログラムとは
本事業が採択された「SBIR(Small Business Innovation Research)推進プログラム」は、スタートアップや中小企業による研究開発とその成果の社会実装を、国の政策課題と連動して支援する制度です。NEDOが実施するこのプログラムは、革新的な技術やサービスが社会に広がることを後押ししています。
株式会社Quixotiksについて
株式会社Quixotiksは、対話AI「QX Engine」の研究開発と、メンタルヘルス・就労支援領域のAIプロダクトの開発・提供を行っています。2023年10月に設立され、東京都渋谷区に本社を置いています。
- 公式サイト: https://www.quixotiks.com/
まとめ
精神・発達障害のある方が直面する就労定着の課題に対し、AIと支援員の協調による新しいアプローチが提示されました。キゾティクスが開発を進める就労定着支援システムは、日々のメンタルケアと生活リズムづくりをAIがサポートし、支援員が専門的な介入を行うことで、よりきめ細やかな支援を実現します。中央大学の監修のもと行われる実証開発は、このシステムの有効性と安全性を科学的に裏付け、将来的な社会インフラとしての可能性を広げるでしょう。障害のある方が「自分らしく働き続けられる」社会の実現に向けた、今後の展開に注目が集まります。




