2026年7月の法定雇用率2.7%引き上げに伴い、企業の障害者雇用は「社会貢献」から「利益を生み出す事業モデル」への転換が求められています。NPO法人AlonAlonが実践する「30工程・6段階ステップアップモデル」や、平均月額工賃63,587円・定着率100%を実現する企業連携(第一園芸等)の仕組み、経費削減と法定雇用率達成を両立する具体策を解説します。


この記事で分かること

  • 2026年7月に実施される「法定雇用率2.7%引き上げ」における企業の課題と対策
  • 障害者雇用をコストから「事業利益」へ変革するAlonAlon流の事業モデル
  • 熟練技術を可視化した「30工程・6段階ステップアップモデル」の人材育成手法
  • 全国平均の約2.6倍となる工賃「63,587円」および定着率100%を支える企業共創の仕組み
  • 第一園芸の事例に学ぶ「慶弔花内製化による経費削減」と法定雇用率達成の両立策
  • 「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2026」におけるAlonAlon那部理事長登壇セッションの概要

障害者雇用の現場で深まる「職務切り出し」と「コスト化」の課題

多くの企業において、サステナビリティ経営やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の重要性が認識される一方、障害者雇用の実務現場では深刻な課題が顕在化しています。

「採用しても担当してもらう適切な仕事が見つからない」「社内での職務の切り出しが難航している」「雇用維持が企業の財務的な負担になっている」といった悩みが、人事・総務部門の共通課題として挙げられます。

さらに、2026年7月には民間企業における法定雇用率が2.7%へ引き上げられる予定です。企業には単なる雇用数の確保(量的拡大)にとどまらず、業務の持続可能性や事業貢献(質的向上)を踏まえた新しい雇用構造への転換が強く求められています。

こうした背景の中、障害者を単なる支援対象ではなく、技術を習得して企業の事業活動に貢献するビジネスパートナーとして迎える「利益創出型モデル」が注目を集めています。


専門用語解説

本記事を理解するうえで基礎となる主要な専門用語を解説します。

1. 法定雇用率

障害者雇用促進法に基づき、民間企業や国・地方自治体などに義務付けられている「全従業員に占める障害者の常用雇用割合」です。2026年7月より、民間企業の法定雇用率は2.7%へ引き上げられます。

2. 就労継続支援B型事業所

障害や難病により、一般企業での常時雇用が困難な方に対して、生産活動や作業機会を提供する障害福祉サービスです。雇用契約を結ばずに作業を行うため、成果に応じた「工賃」が支払われます。

3. 農福連携(のうふくれんけい)

農業分野と福祉分野が連携し、障害のある方の就労機会創出や社会参加と、農業現場における人手不足解消などの課題解決を同時に目指す取り組みです。

4. D&I(ダイバーシティ&インクルージョン) / ESG

D&Iは多様な人材を受け入れ活用する考え方、ESGは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した企業経営の指標です。障害者雇用はESGの「S(社会)」領域およびD&I推進の重要指標と位置付けられています。


「障害者“と”稼ぐ」AlonAlonが構築した新しい農福連携モデル

千葉県富津市で胡蝶蘭や高級マンゴーの栽培・販売を手がけるNPO法人AlonAlon(理事長:那部智史)は、「障害者“で”稼ぐではなく、障害者“と”稼ぐ社会へ」を理念に掲げています。

福祉の現場に企業の生産管理や人材育成の仕組みを導入することで、社会的価値の創出と企業の経済的メリットを両立させる事業モデルを構築してきました。

【従来の障害者雇用】
企業側の課題:職種がない/コスト負担/雇用率維持のみが目的
 ↓
【AlonAlonの事業共創モデル】
福祉と生産の融合:工程細分化による技能習得 → 高品質生産 → 企業事業への参加・利益貢献

職人技を科学化する「30工程・6段階ステップアップモデル」

従来の胡蝶蘭栽培では、熟練職人の経験や勘に依存する作業が多く、初心者や障害のある人が技術を習得することが困難とされていました。

AlonAlonでは、この栽培技術全体を30の工程に分解し、難易度に応じて6段階のステップに体系化しました。

段階対象領域・内容主な実施主体
A〜C工程基礎的な作業(水やり、作業補助、基本管理など)就労継続支援B型事業所にて習得
D〜F工程高度な栽培管理・品質管理・出荷作業などパートナー企業へ就業後、高度人材として担当

仕事を細分化することで、利用者は個々の能力や特性に合わせて段階的に技能を高めることが可能です。B型事業所で基礎(A〜C工程)を習得した人材が、パートナー企業への就職を通じて高度なD〜F工程を担う構造が作られています。


全国平均2.6倍の平均月額工賃「63,587円」と定着率100%の実績

AlonAlonが展開する事業モデルは、数字においても明確な実績を示しています(令和7年度時点)。

  • 就労継続支援B型事業所の平均月額工賃:63,587円(全国平均約2.4万円の約2.6倍)
  • 一般企業への就職率:65%
  • 一般企業への就職後の定着率:100%
  • パートナー連携企業数:25社

福祉事業所の利用者が一般企業へ就職すると事業所側の給付報酬が減少するという、福祉制度上の利害相反が存在します。AlonAlonでは、企業との共創や高品質な商品展開(胡蝶蘭・高級マンゴー等)を通じてこの構造的課題に向き合い、循環型の成長モデルを実現しています。


企業連携事例:第一園芸との共創による慶弔花内製化と経費削減

AlonAlonと花と緑のプロフェッショナルである第一園芸株式会社との共創事例は、企業にとっての経済的メリットを実証する代表例です。

両者の取り組みは、単なる商品仕入れから始まり、AlonAlon元利用者の社員採用、そして第一園芸の社員としての胡蝶蘭自社栽培へと発展しました。

企業が得られる主な経済的・経営的メリット

  1. 慶弔花の内製化による経費削減:社内で調達・利用する慶弔用胡蝶蘭等を自社体制で栽培・内製化することにより調達コストを削減 [13, 16]
  2. 社内生産体制の構築:明確に分解された作業工程により、安定した品質と生産性を確保 [11, 13]
  3. 法定雇用率への実質的対応:一過性の雇用確保ではなく、本業の事業活動に直結する持続可能な職域を開拓 [7, 13]

「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2026」登壇情報

本モデルの全容および具体的な企業連携手法について、株式会社船場主催のイベント「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2026」にてカンファレンスが開催されます。

セッション詳細

  • セッション名:カンファレンス #3―1 「エシカルデザインの本質」
  • テーマ:『障害者“で”稼ぐではなく、障害者“と”稼ぐ社会へ 』
  • 日時:2026年11月11日(水) 13:00-14:40
  • 会場:虎ノ門ヒルズGlass Rock Members Lounge(グラスロックB1階)
  • 登壇者:
    • NPO法人AlonAlon 理事長 那部智史 氏
    • GENERATION TIME株式会社代表取締役 / エシカルディレクター 坂口真生 氏
  • 参加費:無料(要事前予約・Peatixより申込)

本セッションは、人事・障害者雇用担当者のみならず、経営企画、サステナビリティ/ESG推進、総務・施設管理などの幅広い部門に向け、自社で実践可能な連携の具体的な設計図が示される40分間のプログラムとなっています。


Q&A(よくある質問)

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Q1. 農業や栽培経験のない企業でも、このようなモデルを導入できますか?

A. 作業工程が30工程・6段階に細分化されているため、特別な熟練技術や経験がない状態からでも段階的に技能を習得できる仕組みが整えられています。

Q2. 単なる障害者枠の採用と比べた際の企業側のメリットは何ですか?

A. 慶弔花などの調達内製化による経費削減や自社生産体制の強化など、企業の事業活動・財務へ直接貢献する点が挙げられます。

Q3. 法定雇用率達成以外の社会的評価には繋がりますか?

A. ESG経営やD&I推進の具体的な実証事例として、CSRやサステナビリティ活動の文脈においても外部からの高い評価につながります。


比較表:従来の障害者雇用モデル vs AlonAlon流「事業共創モデル」

比較項目従来の障害者雇用モデルAlonAlon流「事業共創モデル」
基本スタンス社会貢献・法定雇用率達成が主目的企業事業への参加・利益創出パートナー
業務設定軽作業の切り出し・手探り管理30工程・6段階に科学化された育成
工賃・賃金全国平均約2.4万円/月(低水準)平均工賃63,587円(全国平均約2.6倍)
定着率・就職定着難やミスマッチの発生一般就職率65%・定着率100%
企業メリット雇用コストの発生(負担感)慶弔花内製化による経費削減・生産性向上

まとめ:法改正に対応し、事業価値を高める新しい障害者雇用へ

2026年7月の法定雇用率2.7%への引き上げに伴い、企業には障害者雇用を単なる「義務」や「コスト」として捉えるのではなく、事業の生産性や経済価値を高める「機会」へと捉え直すことが求められています 。

NPO法人AlonAlonが実践する農福連携モデルは、「30工程・6段階」の人材育成手法と企業との共創関係によって、高い工賃と定着率100%を両立させています。

自社における障害者雇用のあり方を見直し、事業価値と社会的価値の双方を追求するための第一歩として、最新の事例と設計図が公開される「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2026」への参加を検討してみてはいかがでしょうか。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77