この記事で分かること

  • 2027年の法改正動向:障害者手帳を持たない難病のある方を法定雇用率の算定対象に含める厚労省の検討状況
  • 企業の認知度と意識のギャップ:難病雇用未経験企業の約8割が抱く不安と、経験企業の約8割が実感する「想定内での対応」の実情
  • 難病雇用の現場課題:実際の雇用で生じる主な課題(代替要員の確保や業務切り出し)と具体的な解決アプローチ
  • 受け入れを円滑にする具体策:時短勤務・在宅勤務など既存制度の活用と社内理解の醸成ポイント

厚生労働省では、2027年に向けて障害者手帳を持たない難病のある方を法定雇用率の算定対象に含める方向で検討を進めています。これに伴い、企業の障害者雇用や障害福祉に関わる担当者の間で、「どのような配慮が必要か」「突発的な休みにどう対応すべきか」といった疑問や関心が高まっています。

本記事では、障害福祉分野の最新動向として、株式会社ゼネラルパートナーズ(障がい者総合研究所)が1,022人の企業担当者を対象に実施した「難病のある方の雇用に関する意識と受け入れ余地調査」の実態データを基に解説します。難病雇用の現状と課題、そして受け入れをスムーズに進めるための工夫を知ることで、これからの障害福祉・ダイバーシティ推進に向けた実践的なノウハウと見通しを得ることができます。


2027年法改正で注目の「難病雇用」とは?基礎知識と専門用語解説

厚生労働省が検討を進める2027年法改正の背景

現在、厚生労働省において、障害者手帳を持たない難病のある方を障害者法定雇用率の算定対象に含める検討が進められており、2027年の関連法改正を目指した動きとなっています。従来の障害者雇用促進法においては、原則として身体障害者手帳、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方が法定雇用率の対象とされてきました。

しかし、難病のある方の中には手帳を取得していないものの、治療と仕事を両立しながら就労意欲を持つ方が多く存在します。制度の拡充により、企業にとっては多様な有為な人材の確保と活躍推進に向けた新たな好機となる一方、環境整備が求められる転換期を迎えています。

押さえておきたい障害福祉の専門用語解説

記事を読み進めるにあたり、関係する基本的な用語について整理します。

  • 法定雇用率:従業員が一定数以上の事業主に対して、全従業員に占める障害者の割合を一定以上にするよう法律で義務付けた比率です。
  • 難病(指定難病):発症の機構が不明らかで治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする希少な疾患を指します。国の指定難病制度等に基づき医療費助成の対象となる疾患などが含まれます。
  • 合理的配慮:障害のある方が職場で支障なく働くために、支障となっている障害特性や環境上の障壁を取り除くための個別的な調整や配慮のことです。過度な負担にならない範囲で提供が義務付けられています。

難病雇用に対する企業の認知度と意識のギャップ

雇用経験の有無で分かれる制度改定の認知度

2027年の法改正に向けた企業の認識状況調査(2026年9月実施)によると、難病のある従業員の雇用経験がある企業では60.6%が「詳しく知っている」と回答しました。一方で、雇用経験がない企業で「詳しく知っている」と答えた割合は16.5%にとどまり、「見聞きしたことはあるが詳しくは知らない(62.7%)」が最多となりました。

【2027年算定対象化の認知度】
・雇用経験あり企業:詳しく知っている 60.6% / 見聞きした程度 35.7% / 知らない 3.7%
・雇用経験なし企業:詳しく知っている 16.5% / 見聞きした程度 62.7% / 知らない 20.8%

(出典:株式会社ゼネラルパートナーズ「難病のある方の雇用に関する意識と受け入れ余地調査」)

制度改正に対する関心や情報収集の進展度合いには、これまでの雇用実績の有無が大きく影響していることが分かります。

雇用の不安と実際の受け入れ実感の差異

難病のある方の雇用に対して、雇用経験がない企業では「体調の波や突発的な休みの発生(38.3%)」や「急な体調変化時の対応方法がわからない(31.1%)」といった業務上の懸念が上位に挙がっています。

しかし、実際に難病のある従業員を雇用した経験のある企業に配慮や対応の実感を聞いたところ、「想定より非常にスムーズに対応できた(19.7%)」「想定よりややスムーズに対応できた(32.0%)」を合わせ、半数以上の51.7%が想定以上の対応のしやすさを実感しています。「ほぼ想定通りに対応できた(24.9%)」を含めると、約8割(76.6%)の企業が大きな過重負担なく対応できたと回答しています。

【雇用前の想定と実際の対応実感(雇用経験あり企業)】
・想定より非常にスムーズに対応できた:19.7%
・想定よりややスムーズに対応できた :32.0%
・ほぼ想定通りに対応できた     :24.9%
※計76.6%(約8割)が無理なく対応できたと実感

(出典:株式会社ゼネラルパートナーズ「難病のある方の雇用に関する意識と受け入れ余地調査」)

この結果は、受け入れ前の漠然とした不安と、実際の雇用現場での実態との間に一定のギャップが存在することを示しています。


難病のある方の雇用実績と現場で直面する主な課題

受け入れ実績が多い疾患系統の動向

調査によると、実際に雇用経験のある企業で受け入れ実績があった疾患系統としては、「神経・筋疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)」が38.6%、「消化器系疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)」が38.6%で同率トップとなり、次いで「呼吸器系疾患(25.7%)」となりました。特定の疾患に限らず、多様な難病を抱える方の受け入れが各社で進められていることがうかがえます。

雇用現場で生じる実務上の課題

実際に難病のある方を雇用する中で、企業が直面した主な課題としては以下の項目が挙げられています。

  1. 体調不良に伴う業務のカバー・代替要員の確保(40.7%)
  2. 業務の切り出しや適切な配置、業務量の調整(39.0%)
  3. 本人の症状や配慮すべき事項の正確な把握(34.0%)

難病の多くは日によって症状の波が変動する特性を持つため、個々の症状把握と併せて、突発的な欠勤や体調変化に対応できるバックアップ体制の構築が現場の主な検討課題となっています。


難病雇用を円滑に進めるための具体的な取り組みと既存制度の活用

効果的だった社内の取り組みと工夫

難病のある方の受け入れを円滑に進める上で、雇用経験企業において効果を発揮した取り組みは以下の通りです。

  • フレックスタイム制や短時間勤務など柔軟な時間調整制度(46.7%)
  • 業務の見える化やマニュアル化によるフォロー体制の構築(38.0%)
  • 定期的な面談や体調報告など、仕組み化された体調把握体制(34.6%)

業務内容の標準化・マニュアル化を進めることで属人化を防ぎ、定期面談を通じて日頃から体調の変化を把握することが、現場の負担軽減につながっています。

既存の「柔軟な働き方制度」を活用した受け入れの可能性

新規に特別な制度をゼロから新設せずとも、すでに多くの企業で導入されている既存制度の活用が雇用の土台となります。調査では、雇用経験の有無にかかわらず、「短時間勤務制度(経験あり50.2% / 未経験46.4%)」や「在宅勤務制度(経験あり46.7% / 未経験41.1%)」は約半数の企業で既に導入されています。

これらの既存制度を活用することで難病のある方の受け入れが可能か尋ねたところ、「現場の理解などが進めば受け入れ可能だと思う」との回答が双方で約6割(経験あり61.1% / 未経験57.3%)を占めました。さらに雇用経験あり企業では「十分に受け入れ可能と思う」が31.3%にのぼり、既存制度の運用と現場の理解促進が受け入れ拡大の重要な鍵となることがうかがえます。


よくある質問(Q&A)

Q1. 障害者手帳を持っていない難病患者も、2027年以降は雇用率の対象になりますか?

A. 厚生労働省では、障害者手帳を持たない難病のある方を法定雇用率の算定対象に含める方向で検討を進めており、2027年の関連法改正を目指しています。法改正の決定内容や施行時期、対象要件の詳細については、今後の行政からの公式発表や指針を確認することが推奨されます。

Q2. 難病のある方を雇用する際、高額な設備投資や特別な環境が必要ですか?

A. 必ずしも大規模な設備投資が必要とは限りません。実際の雇用現場では、短時間勤務やフレックスタイム制、在宅勤務といった既存の働き方制度の活用や、業務マニュアルの整備など、運用の工夫で対応している事例が多く見られます。また、環境整備にあたっては各種助成金制度等の活用を検討することも可能です。

Q3. 体調の波や突発的な休みに対応するため、現場でできる備えは何ですか?

A. 業務の見える化やマニュアル化を進め、特定の個人に業務が属人化しない体制を作ることが効果的です。また、日頃から定期的な面談や報告体制を整え、本人とコミュニケーションを取りながら体調の変化を早期に把握する仕組みづくりが推奨されます。


まとめ:柔軟な働き方と現場の理解で広がる障害福祉の未来

今回の調査データから、2027年の法改正に向けた難病雇用の現状と今後の展望が明らかになりました。

  • 制度導入の動向:雇用経験企業の8割以上が法改正に伴う採用検討に前向きである一方、未経験企業では現状維持・様子見の姿勢が多く見られます。
  • 実態と意識:雇用前の不安に対し、実際の雇用経験企業の約8割が「想定通りまたはスムーズに対応できた」と実感しています。
  • 成功へのステップ:短時間勤務や在宅勤務といった既存の制度を活用しつつ、業務のマニュアル化と社内理解の醸成を進めることが、受け入れを成功させる確かな第一歩となります。

難病のある方の雇用推進は、単に法令順守(コンプライアンス)にとどまらず、多様な社員が互いにフォローし合える柔軟な職場環境づくり(ダイバーシティ&インクルージョン)につながります。国や行政による支援策や明確な指針の活用とともに、社内の受け入れ態勢を少しずつ整えていくことが期待されます。


調査概要

  • 調査テーマ:「難病のある方の雇用に関する意識と受け入れ余地」に関する調査
  • 調査期間:2026年9月2日(水)~2026年9月7日(月)
  • 調査方法:インターネット調査(PRIZMA)
  • 調査対象:民間企業(従業員数38名以上)の人事・採用担当者、現場責任者 1,022人
  • 調査主体:株式会社ゼネラルパートナーズ(障がい者総合研究所)

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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