デジタル教科書制度改正の動きとアクセシビリティの重要性
文部科学省で進められているデジタル教科書の導入・制度改正は、日本の教育現場に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。この動きに対し、学習障害(LD)やディスレクシア(読み書き困難)のある児童生徒への適切な支援と、通常の教科書におけるアクセシビリティ確保を求める要望書が、認定NPO法人エッジ、一般社団法人日本LD学会、全国LD親の会の三者連名で文部科学省に提出されました。
2026年6月10日に学校教育法等の一部を改正する法律が成立し、今後は大臣指針や検定基準、標準仕様等の検討が進められます。これを受け、6月19日には3団体の代表が文部科学省審議官と面談し、直接、アクセシビリティ保障の必要性を訴えました。

学習障害(LD)とディスレクシアとは?
「学習障害(LD)」とは、全般的な知的発達に遅れはないものの、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す状態を指します。
その中でも「ディスレクシア(読み書き困難)」は、文字の読み書きに特異的な困難がある学習障害の一種です。知的な能力に問題がなくても、文字を正確に読んだり書いたりすることに時間がかかったり、間違いが多かったりするため、学校での学習に大きな影響が出ることがあります。
教科書本文へのアクセスを阻む壁:現状と課題
デジタル教科書の導入が進む中で、要望の中心にあるのは「教科書本文にアクセスできること」です。現在、通常の学級に在籍しながらも読み書きに困難を抱える児童生徒は少なくないとされていますが、診断や申請に至っていないケースも多く、制度上そのニーズが見えにくくなっているという課題があります。
文部科学省が2022年に実施した調査では、「読む又は書く」に著しい困難を示す小・中学生の出現率は3.5%と報告されています。これを令和7年度の在籍者数に当てはめた試算では、約31.5万人規模の児童生徒が該当すると考えられます。しかし、令和8年度使用教科書の音声教材需要数調査で学校等が把握した小・中学生は33,346人にとどまり、このうち通常の学級にいるのは12,025人という結果が出ています。この数字は、潜在的なニーズに対して、制度が十分に機能していない現状を示唆しています。
文部科学省への具体的な要望内容
今回の要望書では、短期的・中長期的な視点から、具体的なアクセシビリティ保障の必要性が提言されています。
短期的な要望のポイント
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年度当初からの利用: 新学期からスムーズにデジタル教科書を利用できる環境整備。
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年度途中の追加利用: 年度途中で困難が判明した場合でも、柔軟に利用を開始できる仕組み。
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診断書等に過度に依存しない利用要件: 診断の有無に関わらず、必要とする児童生徒が利用できるような要件の緩和。
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学校・教育委員会による周知と利用支援: デジタル教科書の利用方法や支援体制に関する情報提供とサポートの強化。
中長期的な要望のポイント
- 通常の教科書へのアクセシビリティ機能組み込み: デジタル教科書そのものに、読み上げ、表示調整、リフロー(文字や画像を画面サイズに合わせて自動調整する機能)、ルビ(ふりがな)、検索といった基本的なアクセシビリティ機能を組み込む制度設計。
これらの要望は、すべての児童生徒が学びの機会を享受できるよう、教育環境の根本的な改善を目指すものです。
要望書全文は、以下のリンクから確認できます。
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認定NPO法人エッジ:https://npo-edge.jp/?p=16270
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一般社団法人 日本LD学会:https://www.jald.or.jp/topics/13515/
当事者の声:学びのスタートラインを揃えるために
認定NPO法人エッジの会長である藤堂栄子氏は、今回の制度改正がディスレクシアの子どもたちにとって「学びのスタートラインに立つための極めて重要な転換点」であると語っています。
藤堂会長自身と息子もディスレクシア当事者であり、これまでの経験から「文字を読むことに過度なエネルギーを奪われ、本来持っている優れた知性や『意味を理解する力』を発揮できずにいる子どもたちが数多く存在する」と現状を指摘しています。音声読み上げなどのアクセシビリティ機能は、視力の弱い人がかける「眼鏡」と同じように、当たり前に使える必需品であると強調。デジタル教科書が単なる「紙の置き換え」ではなく、「誰もが自立してアクセスできる『アクセシブルな教科書』」として制度化されること、そしてすべての児童生徒が日常の授業から高度な試験、さらには成人してからの社会生活においても障壁なく配慮を受けられる社会になることを切に願うと述べています。
認定NPO法人エッジの活動について
認定NPO法人エッジは、2001年に設立されたディスレクシアの当事者団体です。知的な発達に遅れはないものの、読み書きに困難を抱える学習障害であるディスレクシアの正しい認識の普及と支援を目的として活動しています。
会長の藤堂栄子氏は、文部科学省や厚生労働省の政府委員を歴任し、「発達障害者支援法」「教科書バリアフリー法」「読書バリアフリー法」などの立法プロセスにも深く携わってきました。当事者がいきいきと暮らせる社会を目指し、啓発活動や支援者養成、ネットワーク作りを継続的に行っています。
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公式サイト:https://www.npo-edge.jp/
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お問い合わせ:https://npo-edge.jp/contact/
デジタル教科書が拓く、すべての学び手のための未来
今回の要望は、デジタル教科書の制度改正が、単なる教育のデジタル化に留まらず、学習障害やディスレクシアといった読み書きに困難を抱える子どもたちにとって、学びの機会均等を保障する重要な一歩となることを示しています。アクセシビリティ機能が標準装備された「アクセシブルな教科書」の実現は、多様な学びのニーズに対応し、すべての児童生徒が自身の可能性を最大限に引き出せる社会の実現に貢献することでしょう。
今後、文部科学省における議論と具体的な制度設計の進展が注目されます。障害福祉に関心のある読者の皆様も、この重要な動きにぜひご注目ください。

