障害者の就労支援を手がける大阪市の「絆ホールディングス」をはじめとするグループ5法人が、大阪地裁から破産手続き開始決定を受けました。負債総額は約289億円に上り、社会福祉事業者グループとしては過去最大規模の倒産事例となっています。その背景には、「36カ月プロジェクト」と呼ばれる独自の運用をめぐる約79億円の不正受給認定と、約1500人規模とされる突然の解雇訴えが存在します。

本記事では、今回の巨額不正受給認定と経営破綻の経緯、就労継続支援A型事業所および「就労移行支援体制加算」の仕組み、大阪市の判断と事業者側の主張の食い違い、そして現場への影響について解説します。


この記事で分かること

  • 破綻の全体像:絆ホールディングス等5法人が負債額約289億円で破産手続き開始決定を受けるまでの経緯
  • 不正受給の仕組み:制度の趣旨と「36カ月プロジェクト」(雇っては利用者に戻す循環構造)に対する大阪市の認定理由
  • 返還請求と法的措置:大阪市による約79億円の不正受給認定、約110億円の返還請求、詐欺容疑での警察告訴と処分取消提訴の動き
  • 現場と利用者への影響:約1500人の解雇訴えと福祉サービス停止がもたらす課題
  • 専門用語の基礎知識:就労継続支援A型、就労移行支援体制加算、法的整理(会社更生・破産)の初心者向け解説

障害者支援事業者の巨額不正受給と破綻が投げかける不安

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障害者福祉の現場において、事業者の健全な運営と利用者の安全な生活保障は最重要の課題です。しかし、近年、障害福祉サービスを提供する大規模事業者の不正受給や行政処分、経営破綻に関する報道が相次いでおり、サービス利用者やそのご家族、さらには現場で働く福祉スタッフの間に大きな不安が広がっています。

特に2026年11月、障害者の就労支援を展開してきた大手事業者グループが負債総額約289億円を抱えて破産手続き開始決定を受けたニュースは、社会福祉事業者として過去最大規模の倒産として業界内外に強い衝撃を与えました。

「なぜこれほどの巨額倒産に至ったのか」「どのような仕組みで不正受給が認定されたのか」「利用者の生活や雇用はどうなるのか」といった疑問や悩みに応えるため、本記事では報道公表資料および行政の公表情報に基づき、事件の構造を分かりやすく紐解きます。


障害者支援事業者「絆ホールディングス」グループの巨額倒産と不正受給の概要

破産手続き開始決定と過去最大規模の負債額(約289億円)

2026年11月2日、大阪地裁より破産手続き開始決定を受けたのは、株式会社絆ホールディングスおよび関連する「JOB connect」「レーヴ」「リベラーラ」、ならびにNPO法人「リアン」の計5法人です。

民間信用調査会社である帝国データバンクの発表によると、2026年6月の法的整理申請時点における負債総額は289億5361万円に達しており、社会福祉事業者を対象とした倒産事例としては過去最大規模となります。

絆ホールディングスとグループ5法人の事業概要

絆ホールディングスは2012年に設立された事業者です。障害者の就労支援事業を中心に、放課後等デイサービスなど多角的な障害福祉サービス事業を展開していました。

事業の拡大は著しく、2023年3月期には単体売上高で約24億円を計上するなど、大規模な社会福祉事業者グループとして知られていました。しかし、その急速な事業拡大の背景にあった運用方法に対し、行政側から重大な制度違反の指摘がなされることとなりました。


不正受給の真相:「36カ月プロジェクト」と加算制度の仕組み

就労継続支援A型事業所と「就労移行支援体制加算」とは?

今回の問題を理解するためには、障害福祉サービスにおける2つの専門用語を理解する必要があります。

① 就労継続支援A型事業所とは?

一般企業で働くことが困難な障害をお持ちの方に対し、福祉的配慮のもとで雇用契約を結び、就労の機会や必要な知識・能力の向上を図る障害福祉サービスです。利用者は労働基準法に基づく最低賃金以上の給料を受け取りながら働きます。

② 就労移行支援体制加算とは?

就労継続支援A型事業所などの利用者が、一般企業へ就職(一般就労)し、一定期間(6カ月以上など)職場に定着し続けた実績に応じて、事業所に国や自治体から支給される報酬(給付金)が上乗せされる加算制度です。障害者の一般就労への移行や、就職後の職場定着に向けた事業所の支援姿勢・成果を正当に評価することを目的としています。

不正と認定された「雇っては利用者に戻す」循環構造

行政(大阪市)が巨額の不正請求として認定した中心的な原因は、絆ホールディングスグループが実施していた「36カ月プロジェクト」と呼ばれる独自の取り組みです。

報道や行政の発表によると、同グループでは、自身が運営する就労継続支援A型事業所の利用者を一度グループ内の別企業で雇用形態へと切り替えた後、一定期間経過後に再びA型事業所の利用者に戻すという運用を行っていました。

大阪市は、この「A型事業所の利用に戻ることをあらかじめ前提としてグループ内で雇用する仕組み」について、一般企業への就労定着を評価するという加算制度本来の趣旨に反すると判断しました。

大阪市が問題視した加算対象の過大算定と重複算定

大阪市による調査では、単に運用の趣旨違反にとどまらず、制度上の要件を満たさない算定が広範囲に行われていたことが指摘されています。

具体的には、一般就労への定着として認められない対象者を過大に計上して加算を請求していたほか、過去3年間に加算対象となった利用者を、市町村長が認める例外的な場合に該当しないにもかかわらず繰り返し(重複して)算定していたことが問題視されました。


行政処分・返還請求とグループ側の主張・法廷闘争の経過

大阪市による約79億円の不正受給認定と約110億円の返還請求

大阪市が認定した絆ホールディングスグループによる不正受給額は、大阪市支給分のみで約79億円に上ります。さらに行政上の規定に基づき、40%の加算金を加えた返還請求額は約110億円に達しました。

なお、報道によれば、大阪市以外の自治体を含む2府5県の範囲では、不正受給認定額は計約150億円規模に及ぶと報じられています。

詐欺容疑での刑事告訴と指定取消処分の実施

事態の重さを重く見た大阪市は、段階的に厳しい行政処分と法的措置を実施しました。

  1. 指定取消発表:3月27日、グループ4法人が運営するA型事業所について、5月1日付で指定取り消し処分を行うと発表。
  2. 警察への刑事告訴:4月30日、運営法人の代表および元代表ら関係者5人について、詐欺容疑で大阪府警に告訴状を提出。

事業者側の反論・提訴と会社更生法申請から破産決定までのタイムライン

一方で、グループ側は行政の処分に対して一貫して異議を唱えていました。

  • 事業者側の主張:「36カ月プロジェクト」は一般企業への就職を目指す利用者に対して再挑戦の機会を提供する正当な仕組みであり、不正と解釈する行政の判断には受け入れがたい点がある。
  • 処分取り消し訴訟:4月、大阪市による返還請求処分などの取り消しを求めて大阪地裁へ提訴。
  • 法的整理の申請:6月22日、絆ホールディングスなど株式会社4社は更生を目指して会社更生法の適用を申請(NPO法人リアンは破産を申し立て)。
  • 申立棄却と破産決定:10月1日、更生手続き開始の申し立てが棄却され、11月2日にグループ5法人に対して破産手続き開始決定が下されました。

【時系列まとめ】倒産と法的措置のタイムライン

  • 3月27日:大阪市が事業所の指定取消を発表(5月1日施行)
  • 4月:グループ側が処分取り消しを求め大阪地裁に提訴
  • 4月30日:大阪市が代表ら関係者5人を詐欺容疑で警察に刑事告訴
  • 6月22日:会社更生法適用を申請
  • 10月1日:会社更生手続き開始申し立てが棄却
  • 11月2日:大阪地裁がグループ5法人に破産手続き開始決定を下す

現場・利用者・職員への甚大な影響と解雇問題

約1,500人に及ぶ突然の解雇訴えと福祉サービスの停滞

経営破綻と行政処分に伴い、現場では極めて深刻な事態が発生しました。グループの事業所を利用していた障害者や現場スタッフなど、約1,500人が解雇されたとの訴えが上がっています。

就労の機会や生活の糧を突然失うこととなった利用者への影響はもちろんのこと、現場で真面目に業務に取り組んできた福祉職員への精神的・経済的打撃も大きく、適切な支援の継続に向けた対応が強く求められています。

障害福祉業界全体への信頼揺らぐ影響と類似事例

今回の問題は単一事業者の不祥事にとどまらず、障害福祉サービス制度全体の信頼性や行政のチェック体制の在り方に重大な課題を突きつけています。

近年では、障害者グループホーム大手の「恵」において、食材費の過大徴収(約3億円)や診療報酬の不正請求(約4億円超)による事業者指定取消処分が発生するなど、福祉ビジネスにおける巨額不正や不正受給の問題が散発しています。行政による適正な指導監督と、制度の趣旨に沿った健全な事業運営の徹底が改めて問われています。


よくある質問(Q&A)

Q1. 就労継続支援A型事業所で不正受給が起こる主な原因は何ですか?

A. 主な原因として、障害福祉サービス給付金や各種加算制度の要件解釈をめぐる問題や、事業運営における収支構造の無理が挙げられます。制度本来の趣旨(利用者の一般就労や定着の支援)から逸脱し、加算報酬の取得そのものを目的とした運用が行われた場合、行政から不正受給と判定されます。

Q2. 利用していた事業所が突然破産・閉鎖した場合、利用者はどうすればよいですか?

A. お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、担当の相談支援専門員に迅速に相談することが重要です。他の健全な就労継続支援事業所(A型・B型)や就労移行支援事業所への移籍・再配置に向けた調整支援を受けることができます。

Q3. 「会社更生法」と「破産手続き」の違いは何ですか?

A. 「会社更生法」は、事業の継続を前提として再建を目指す手続きです。一方、「破産手続き」は事業を清算し、残った資産を金銭に換えて債権者に分配する手続きを指します。本件では当初会社更生を目指したものの申請が棄却され、最終的に事業清算を目的とする破産手続きへ移行しました。


行政(大阪市)の認定内容 vs 事業者(絆ホールディングス)の主張

今回の巨額不正受給認定および処分の妥当性をめぐっては、行政側と事業者側で主張が大きく対立していました。両者の主な主張のポイントは以下の通りです。

比較項目大阪市(行政側)の認定内容絆ホールディングス(事業者側)の主張
「36カ月プロジェクト」の評価制度趣旨に反する不正な運用。A型事業所に戻す前提で雇用しており、一般就労定着とは認められない。一般企業への就労を目指す利用者に再挑戦の機会を提供する正当な仕組みであり、不正ではない。
加算制度の適用要件加算対象者を過大算定し、重複算定を行っていたため、不正請求に該当する。運用評価に対する解釈の違いであり、処分の取消を求めて大阪地裁に提訴。
返還請求・法的措置不正受給額約79億円+加算金40%=約110億円の返還を請求。詐欺容疑で刑事告訴。更生法適用による事業継続・再建を模索(最終的に申立棄却により破産移行)。
制度上の課題巨額給付金の不適正な請求に対し、指定取消を含む厳格な処分を実施。行政による長期間のチェック体制や制度運用の基準に異論が存在。

まとめ:今後の障害福祉サービスの健全化に向けて

障害者支援事業者「絆ホールディングス」をはじめとするグループ5法人の破産手続き決定と約79億円に上る不正受給認定は、障害福祉業界における過去最大級の巨額倒産事件となりました。

  • 制度の趣旨徹底:「就労移行支援体制加算」をはじめとする各種給付金は、障害者の自立と社会参加を支援するための公的資金であり、適正な運用が不可欠です。
  • 利用者の保護:事業者の経営破綻によって約1500人の雇用や支援機会が脅かされた経験から、行政と地域社会による迅速な受け皿の確保と利用者保護の仕組みが求められます。
  • 事業所の健全性見極め:利用を検討される方やそのご家族は、事業所の支援実績や評判、運営の透明性を慎重に確認することが大切です。

障害福祉サービスが真に利用者の自立と幸せに貢献できるよう、行政によるチェック機能の強化と、事業者側のコンプライアンス遵守が強く望まれています。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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