オスラー病の在宅止血材「サージセル」が保険適用へ:難病患者の生活を変える一歩

希少難病「オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症/HHT)」に苦しむ患者にとって、長年の課題であった高頻度の鼻出血に対する在宅止血材「サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMD」が、2026年9月1日より公的医療保険の適用対象となることが決定しました。これにより、患者自身が医師の指示に基づき、自宅でサージセルを使用できるようになります。

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難病患者の医療アクセス改善:サージセルの保険適用がもたらす変化

今回の保険適用は、オスラー病患者の命と生活を守る上で大きな前進と位置付けられています。これまで、日々繰り返す鼻出血に悩まされてきた患者が、より迅速かつ安全に止血できるようになることで、救急受診の減少や生活の質の向上が期待されます。

決定事項の要点

  • 2026年5月13日:薬事承認

    • オスラー病などによる高頻度の鼻出血に対し、患者自身が医師の指示に基づいてサージセルを在宅で使用するための承認が行われました。
  • 2026年8月5日:保険適用を了承

    • 中央社会保険医療協議会において、在宅で使用できる特定保険医療材料として保険適用することが了承されました。
  • 2026年9月1日:保険適用・供給開始

    • 医師の指示に従って患者が在宅で使用するサージセルについて、公的医療保険の適用と供給が開始されます。

2万人を超える署名が制度を動かす:患者会主導の取り組み

この成果は、特定非営利活動法人日本オスラー病患者会の主導による、2万人を超える署名活動と、厚生労働省、製造販売会社、医療関係者などへの継続的な働きかけによって実現しました。

多くの手が光るハートと書類を囲むように集まり、愛、協力、支援の精神を表現するイメージ

日本オスラー病患者会は、サージセルを安定して使用できる体制を求め、オンラインおよび書面で署名活動を実施。全国からの2万人を超える賛同が、制度を動かす大きな力となりました。患者、家族、支援者、医療関係者、行政機関、企業など、多様な関係者の協力と行動が重なった結果であると報告されています。

オスラー病とは?高頻度鼻出血と在宅止血材「サージセル」の重要性

オスラー病は、全身の血管に異常が生じる遺伝性の指定難病です。特に鼻、口腔、皮膚に毛細血管拡張がみられるほか、肺、脳、肝臓、消化管などに動静脈奇形や血管異常を伴うことがあります。一般的な鼻血とは異なり、鼻腔内の脆弱な血管から突然、短時間で大量に出血する「鼻腔内多発性毛細血管出血」が特徴です。

リビングでリラックスする女性の姿

重症患者の場合、1日に何度も出血を繰り返し、以下のような深刻な影響が生じることがあります。

  • 病院での受け入れが困難になるケース

  • 慢性的な鉄欠乏性貧血

  • 救急受診や入院の頻発

  • 鉄剤治療や輸血の必要性

  • 睡眠障害

  • 外出や就労の制限

  • 出血に対する強い不安や恐怖

サージセルは、酸化再生セルロースを主成分とする吸収性局所止血材です。患者が医師から適切な使用指導を受け、自宅で出血部位に使用できるようになることで、出血の早期コントロール、重症化の予防、救急受診や過度な医療処置の回避につながることが期待されており、医療費抑制にも貢献すると考えられます。

2024年の制度変更で生じた課題と患者会の対応

サージセルは以前から一部のオスラー病患者が日常的な鼻出血の止血に使用していましたが、2024年4月に医薬品から手術用の医療機器・保険医療材料へと制度上の取り扱いが変更されました。これにより、患者が外来診療や在宅で受け取ることが困難となり、必要な止血材を入手できなくなる事態が発生しました。

患者会には、「自宅で出血を止められない」「耳鼻科での受診拒否」「夜間・休日の救急受診」「貧血の悪化」「仕事や日常生活の継続困難」といった切実な相談が多数寄せられました。これに対し、日本オスラー病患者会は、患者の使用実態や被害状況を整理し、厚生労働省、製造販売会社、医療関係者などへ継続的な協議と要望を行いました。

難病法、合理的配慮、PPI(患者・市民参画)が制度を動かした事例

今回の保険適用は、患者会が単なる要望に留まらず、法令や理念を根拠に具体的な改善策を提示した結果でもあります。患者会理事長自身が患者である立場から、客観的なデータと法的根拠を整理し、行政機関や企業と協議を進めました。

難病法が示す「良質かつ適切な医療の確保」

難病法は、難病患者に対する良質かつ適切な医療の確保と、療養生活の質の維持向上を目的としています。今回の交渉では、日常的な出血に必要な止血材を患者が受け取れない状況が、難病患者の医療アクセスと療養生活に重大な影響を与えていることを示し、難病法の基本理念に基づく改善を求めました。

障害者差別解消法に基づく「合理的配慮」の実践

2024年4月からの改正障害者差別解消法により、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されています。オスラー病患者にとって、必要な止血材が入手できないことは、外出、就労、睡眠、通院、社会参加などを妨げる社会的障壁となります。今回の事例は、合理的配慮を単なる理念として掲げるだけでなく、患者が実際に必要な医療材料を利用できる体制へ結び付けることの重要性を示しました。

患者・市民参画(PPI)の真価を発揮

PPI(Patient and Public Involvement)とは「患者・市民参画」を意味します。患者は医療や研究の単なる対象ではなく、病気とともに生活し、治療や制度による利益と不利益を経験している当事者として、重要な知見を持っています。

今回のサージセルの薬事承認と保険適用は、患者会が自ら課題を発見し、患者実態を収集、必要な止血方法を提示し「オスラー病鼻血止血患者向けガイドブック」を作成するなど、行政機関や企業と直接協議を重ねたものです。患者の経験と知見を、医療制度の具体的な改善へ結びつけた、実践的な患者参画の一例であると考えられます。

多様な人々が希望に満ちた未来へ向かって歩む姿と、日本列島が一体となって連携する様子

希少難病患者・患者団体へのメッセージと今後の展望

日本オスラー病患者会は、今回の事例が、同じように治療法や医療アクセスの問題に苦しむ希少難病患者、患者家族、患者団体の皆さまにとって、行動を始めるきっかけとなることを期待しています。患者の声は、医療や制度の改善に生かされ、将来の患者を守り、医療者や医療機関の負担を軽減し、より安全で持続可能な医療をつくることにもつながると考えられます。

医療関係者、ビジネスパーソン、患者、家族が円卓を囲み、包括的なヘルスケアについて話し合う様子

理事長からは、2万人を超える署名協力者、医療関係者、厚生労働省関係者、製造販売会社への深い感謝が述べられています。また、今回の成果は、患者が声を上げ、行動し、制度を活用することによって、医療を変えられる可能性を示したものであり、「患者にもできることがある」と感じてほしいとの願いが語られました。

2026年9月1日からの供給開始後に残る課題

保険適用と供給開始が決定しましたが、全国の患者が実際にサージセルを受け取れる体制を整えるためには、引き続き以下の取り組みが必要とされています。

  • 多発性肺動静脈瘻(PAVM)治療における塞栓用コイルの実質的な使用制限(医療費カット)がもたらす患者負担の肉体的精神的負担の増大と医療費の浪費

  • オスラー病の肝血管奇形は、高心拍出性心不全や肺高血圧症を引き起こすことがあります。早期発見と適切な病型診断のため、HHT・循環器・肺高血圧の専門医による連携診療の普及を求めます。

  • 医療機関、医師、薬局、薬剤師への全国的な周知

  • 医師による適切な使用指導体制の整備

  • 患者に分かりやすいオスラー病患者向け使用ガイドブックの作成

  • 夜間、休日、救急時を含む供給体制の確保

  • 供給開始後の使用状況、安全性及び課題の把握

  • 患者会を含む継続的なPPI体制の構築

日本オスラー病患者会は、供給開始後も患者からの相談や情報を収集し、問題が確認された場合には、関係機関へ必要な改善を求めていく方針です。

関連情報と日本オスラー病患者会について

今回の保険適用に関する公表資料は、厚生労働省の中央社会保険医療協議会で確認できます。

特定非営利活動法人日本オスラー病患者会は、オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症/HHT)の患者と家族を支援する団体です。相談支援、疾患情報の提供、患者交流会の開催、医療者への啓発、診療体制の改善、行政機関への政策提言、医学研究への患者参画など、多岐にわたる活動を行っています。

日本オスラー病患者会が目指すもの

  • 未診断患者の早期発見

  • 適切な全身スクリーニング

  • 多診療科による連携体制の整備

  • 鼻出血治療と止血方法の改善

  • 医療アクセスの地域格差解消

  • 患者の声を反映した研究・医療・制度づくり

団体概要

  • 団体名:特定非営利活動法人日本オスラー病患者会

  • 代表者:理事長 村上 匡寛

  • 公式ウェブサイト:https://www.hht.jpn.com/

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77