発達障害児の「困り感」を科学的に解明!感覚特性評価ツールの重要性

発達障害のある児童の中には、日常生活で「感覚の困り感」を抱えている方が少なくありません。例えば、特定の音や光に過剰に反応する「感覚過敏」や、怪我をしても気づきにくい「感覚鈍麻」といった特性です。これらの感覚の問題は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準の一部にも含まれるほど、当事者にとって喫緊の課題となっています。

しかし、これまでの日本では、ASDをはじめとする発達障害児の感覚特性を心理学的に妥当性のある方法で評価できるツールが非常に限られていました。そのため、個々の児童がどのような感覚の困り感を抱えているのかを客観的に把握し、適切な支援に繋げることが難しい状況でした。

世界で活用される「SEQ」とは?日本語版開発で広がる可能性

このような背景の中、杏林大学や関西医科大学などの研究グループは、発達障害のある児童の感覚特性を評価するための質問紙「Sensory Experience Questionnaire(SEQ)」の日本語版を開発し、その妥当性を明らかにしました。SEQは、2歳から12歳の発達障害のある児童を対象に、保護者が回答する形式で、国際的に広く活用されているツールです。

SEQでは、主に以下の4つのカテゴリで感覚特性の傾向を数値化できます。

  • 感覚過敏: 感覚刺激に過剰に強く反応する傾向

  • 感覚鈍麻: 感覚刺激への反応が低い、または気づきにくい傾向

  • 反復的感覚探求: 刺激を繰り返し追い求める傾向

  • 知覚強化: 刺激への気づきやすさなど

これらに加え、聴覚、視覚、触覚、味覚・嗅覚、前庭・自己受容感覚といった5つの感覚種ごとの特異性や、社会的文脈における反応の得点も算出できるのが特徴です。この多角的な評価により、児童一人ひとりの感覚特性の全体像をより詳細に把握できるようになります。

感覚処理の特性と種類を説明する図

今回の研究では、原版開発者の許諾を得てSEQ第3版の日本語版を作成し、ASDのある児童154名と、発達障害の診断のない定型発達児156名を対象に分析が行われました。その結果、日本語版SEQが国内の児童のデータにおいても統計学的に妥当であることが示され、特異な感覚特性の目安となる基準値の算出(標準化)も行われました。この標準化得点は、今後のASDの診断や児童への支援において役立つ可能性があります。

ASDとADHD、感覚特性の違いを明らかに!個別支援への第一歩

本研究の特に重要な発見は、ASDと他の発達障害が併存する児童の感覚特性の類似性を検討した点です。分析の結果、自閉スペクトラム症(ASD)のみの児童と、注意欠如多動症(ADHD)を併存する児童とでは、感覚特性の構造的な差異があることが明らかになりました。

具体的には、SEQのすべての得点を用いた表象類似性分析により、ASDのみのグループ内での類似性やADHD併存グループ内での類似性は確認されたものの、ASDのみのグループとADHD併存のグループ間では低い類似性が示されました。

ASD児、ADHD併存児、およびASD児とADHD併存児間のSpearman's rhoの分布を示すヴァイオリンプロット

この発見は、発達障害児の行動特性を理解する上で、感覚特性の構造的な違いを考慮することが重要であることを示唆しています。つまり、「感覚の問題がある」という一括りの理解だけでは、児童それぞれの真の困り感を捉えきれず、適切な支援に繋がらない可能性があるということです。SEQを活用し、個々の発達障害児の感覚特性の全体像が客観的に示されるようになれば、より適切で個別性の高い発達支援や環境調整が可能となるでしょう。

今後の展望と期待される支援の進化

今回の研究では、ASDやADHDの併存のあるASD児童以外の発達障害児については、対象者数の不足から詳細な解析ができませんでした。しかし、読むことの困難(ディスレクシア)などがある限局性学習症(SLD)や、運動スキルに困難がある発達性協調運動症(DCD)のある人でも、感覚刺激への反応特性が日常生活における困りごとの根底にあるのかもしれません。今後、SEQが多様な発達特性のある児童間の感覚の違いを検証する上で妥当なツールであるか、さらに吟味していく必要があるでしょう。

また、本研究で用いられた分析手法は、SEQの各カテゴリと、脳や生理指標の反応パターンとの類似性を評価するためにも活用できる可能性があります。日常の感覚体験と脳や身体機能の対応関係を詳しく調べることで、発達特性に応じた感覚の問題の背景メカニズムをより深く理解できるかもしれません。これらの研究の進展により、発達障害のある児童への支援は、きっとさらに個別化され、効果的なものへと進化していくことでしょう。

研究概要と詳細情報

本研究は、学術変革領域研究(A)などの支援を受けて実施されました。

論文タイトル:Development and validation of a Japanese version of the Sensory Experience Questionnaire (SEQ) 3.0: Structural differences of sensory features across autistic children

著者:Takeshi Atsumi, Haruka Ito, Akane Shinjo, Tomoe Fukutomi, Yasuo Terao, Masakazu Ide, Kanae Matsushima(*;責任著者)

掲載誌:Autism Research

DOIhttps://doi.org/10.1002/aur.70317

オンライン公開日:2026年7月25日

研究機関:杏林大学医学部、筑波大学、国立障害者リハビリテーションセンター研究所、関西医科大学

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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